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一倉 宏

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2010/03/01 (月)
大手拓次を知っていますか

 大手拓次( おおて たくじ )

 1887 群馬県、磯部温泉の旅館の次男坊として生まれる
 1907 早稲田大学英文科に入学
     詩人をこころざす
 1916 ライオン歯磨本舗広告部に就職
     以降、雑誌に詩編を発表しつつ、会社員をつづける
 1934 生涯独身のまま、47才で病没
     その後、詩集が刊行される

コピーライター(広告文案家)として先駆者的な存在でしょう。
しかし残念ながら、その分野での作品、資料等をみたことがありません。
現「LION」さんの社史などには残っているでしょうか。
あるとすれば、ぜひ拝見したいものです。

彼を評価した北原白秋や萩原朔太郎ほどには
世間から評価されたり名を知られたというわけではありませんが
岩波文庫をはじめ、いくつかの詩集も、全集も刊行されています。

高校時代に友人のK君に強く勧められて読みました。
当時の私には、観賞する能力も、評価する能力も欠けていたでしょう。
率直にいえば、私にとって「苦手なタイプ」の作品群だったのです。
フランス象徴詩、官能性。
ボードレールやランボオだって、私はあまり「読め」なかったのだし。
拓次が大好きで、毎日のように長編の象徴詩を書いてきて「読め」という
K君とはその後、疎遠になってしまいました。

いまでも、大手拓次に対して、私はよき読者ではありません。
それは白状しておきます。
しかし、たとえば・・・

  
  ベルガモットの香料

 ほろにがい苦痛の滋味をあたへたる愛恋、
 とびらはそこに閉ざされ、
 わたしの歩みをしぶりがちにさせる。
 はりねずみの刺に咲く美貌の花のやうに
 恋情のうろこをほろほろとこぼしながら、
 かぎりなくあまい危ふさのなまめかしさを強いてくる。

 
「香料の顔合わせ」と題した詩群のひとつ。
私はたぶん、作者の世界を充分にトレースすることはできないまま
「ベルガモットの香り」をこのように言語化する試みに驚きます。
これは、一種の共感覚なんでしょうか?
「なんとなくわかる」レベル・・・慢性副鼻腔炎の私には。        

そして、びっくらこくような資料に出会いました。
これは、すごいです!

 大手拓次「香水の表情に就いて」

もう、読めるか、ついていけるかは、関係ない。
なんというモダン、なんというセンス。
「なんとなくわかる、ような気がする」感覚の万華鏡的展開。
大手拓次さま、そしてK君、不明を恥じます!