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一倉 宏

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2013/01/25 (金)
ハローとグッバイのあいだに




あなたと僕がはじめて出会ったのは 僕の誕生日でしたね



ほんとうのことをいえば 僕は よく憶えていないのだけれど

あなたは くりかえし 話してくれた

その朝の 空の青さ 風の匂い 緑の眩しさまで



その日から 僕には なにもかもはじめてのことばかり

あなたとの出会いは 人生でいちばん大きな 運命だと思う

ほかの誰でもありえなかった この世界でただひとり
絶対の運命 といえる女性は ほかにいない



あなたが僕を見つめるたびに 僕はしあわせを憶えた


あのころの僕は わがままなほど あなたを独占しましたね

それを許して 厭いもせず いつも笑顔で

あなたを なにかに喩えるなら 太陽というほかにない



あなたが僕にくれたのは 生きるよろこび そのもの


僕はいつも 叫びたいほどの気持ちだった

目覚めればそこに あなたがいるしあわせ
 
いない夜のかなしみ そして その肌のぬくもりも



あなたなしでは生きてゆけない 僕だったから
それはなんの大袈裟でもなく あなたについて思ったこと

いつか 壊れるほどに泣いた日を 憶えています

その胸に委ねた この僕の小ささ 悲しそうなあなたの顔



あなたの教えてくれたこと 僕はいつまでも忘れない

美しい歌 心をこめたことば この世界の歩き方

ごはんのおいしさも 読書のたのしさも

そして 誰かを傷つけること 自分の弱さと過ちについて 
  


あなたに会えてよかった あなたがいてよかった


 
あなたとの出会いは 人生でいちばん大きな 運命に違いない

ほかの誰でもありえなかった この世界でただひとり

あなたがいなければ この僕はいなかった



おかあさん



あなたとの別れのときが とうとう来てしまいました
怖くて想像できなかった別れが ついに

想像しても 覚悟をしても 実感できない別れが



あなたとのさよならは 凍るような夜の果て

ながらく むずかしい病と闘っていたあなたは

突然のように力尽き 戻れない橋を渡っていった

搬送する救急隊の 後を追って走るあいだに

あなたの帰りたかった故郷の街が 天の川のように見えました

さようなら おかあさん  



あなたと僕がはじめて出会ったのは 僕の誕生日でしたね


ほんとうのことをいえば 僕は よく憶えていないのだけれど

あなたは くりかえし 話してくれた

その朝の 空の青さ 風の匂い 緑の眩しさ

その愛の はじまりを


 TOKYO COPYWRITERS’ STREET/片岡孝太郎

 *母の七回忌を迎え、再掲しました。