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一倉 宏

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2014/06/29 (日)
蛍の想い 〜 ふたたび

Tokyo Copywriters’ Street 「蛍の想い」

 

2010年、TFMの番組「Tokyo Copywriters’ Street」に書き下ろし。

春海四方さんの朗読でオンエアされました。
・・・あれから4年。
私たちの現在位置を確認するために、再掲します。

 

蛍の想い

1945年 戦争の終わる夏
日本各地に たくさんの蛍が飛んだ
せめてそうして 故郷へ帰りたいと願った
若者たちがいたことを 私たちは知っている

その頃にはまだ 東京の郊外は
田んぼに小川 たくさんの蛍が飛んだ
水を求めて 渇きを癒し切なく光った
玉川上水近くの おばあさんは憶えている

1960年代 オリンピック 新幹線
高度成長 だけどまだ蛍は飛んだ
日本全国 水辺にはいた 里山にいた
いつしか川の水は汚れ コンクリートの蓋をされて

だから 蛍は消えた
誰もが そう信じている
だけど そうだろうか? ほんとうに?

蓋をされない玉川上水を
いまも散歩するおばあさんはいう
「みんな 戦争のことを忘れたからだ」と
「戦争のことを 思い出さなくなったからだ」と
戦争で死んだ 若く 寡黙な 無念な 若者たちのことを

1960年代 戦争はまだ語られ
思い出された 若者たちの数だけ
語られただけ 夏がくるたび蛍は光った
そうじゃなかったろうか? 私たちは忘れている

70 80年代 戦争は語られなくなり
あの蛍たちはどこかに消えた のではなかったろうか?
201X年 そしてまたこの国に
あの蛍たちがふたたび たくさん飛ぶ日がくるのだろうか?

私たちはそれほど 賢いだろうか?
あるいはそれほど 愚かだろうか?

忘れないでください
源氏 平家の昔から
戦争で死ぬ若者たちの残した想いが
この世の蛍となることを

 

 

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