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一倉 宏

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2015/11/08 (日)
1976年のブックマーク
読書の愉しみのひとつに「再読」があります。
書棚の背表紙は、いつでも取り出せる「再体験」のインデックスです。
それは、かつて向きあった著者の著作との「再会」であるばかりでなく
その時の自分との「再会」にもなりえるから不思議です。

時には、こんなことも書いてあったのか、読み落としていた、と気づく
「再発見」もありますが。それよりも、きっと同じページ、同じ文章で
立ち止まる、そんな瞬間がある。たとえ、何十年前ぶりの「再会」でも。

1976年刊行の岩波講座『文学3〜言語』から。谷川俊太郎さんの
「言語から文章へ」の稿、こんなページが「角折り」してありました。


  もしも私たちが何ひとつ文章を創造せず、決まり文句や引用
 ばかりで話し合うようになったらどうだろう。私たちはしまい
 にはきっと、自分と他人の区別のつかぬ均一な集団になってし
 まう。そういう危険はいわゆる全体主義的な社会にだけあるの
 ではなく、マスコミュニケーションの発達した民主主義社会に
 もひそんでいる。権力の強制のみが私たちのことばを画一化す
 るのではない。私たち自身の中に画一化への欲望がある。


40年も昔、学生時代に刊行された講座です。インターネットなんて、
想像さえしていなかった。詩人のこの予知と警告に震撼するとともに、
その時、ここで立ち止まり、角を折った自分と「再会」したのでした。
おそらく、いまの時代と私自身へのブックマークとして。