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一倉 宏

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2013/08/07 (水)
一倉宏が16才のときに書いた詩

  
  神様のミスキャストたち

 ケン
  せっけんのような
  いい匂いのする朝になった
  <もうはじまるよ
  カーテンが
  広げた翼のように力みなぎって
  <もうはじめなけりゃ
  ケン
  さっぱりと絶望的に跳ね起きる

 カゼ(風)
  かぜが吹くよ
  ハーモニカの窓から
  おはようおはようとかぜが吹く
  おはよう 食卓からひややっこがひとつころげおちて
  おはよう 公園のまだゆれていないブランコに 
  おはよう おはよう
  国道に沿って おはよう 小学校の屋根を越えて おはよう
  スキーのジャンプ台を飛び越えて おはよう
  森を越えて 島を越えて まぶしい海を越えて
  おはよう!
  グリーンランドでは 
  ハッカのような風が吹くんだ

 ゴロウ
  だれでも
  一度は詩人になりたいと思う同じように一度はペンキ屋に
  なりたいとも思う
  <空の青いのがおいらの手本だからね
   誰も文句をつけられないほど自然な色に塗れてる!
  ゴロウ
  口笛を吹きながら
  3小節塗る

 シノ
  たいようのひかりの
  テーブルの上のコップにさしているところが
  わたしの昼寝をするばしょ
  (世界でいちばん静かなばしょ)
  
 ロノ
  ロノ
  石を投げる
  インディアンのロノ
  夕陽に向かって石を投げる
  飛ぶ小石
  が落ちるとかすかに埃がまう 
  はずだが
  やりきれないくらいまぶしくて
  ロノ
  ふたたび石を握る
  ロノ
  夕陽に向かって走り叫び石を投げつける
  インディアン
  泣かない 
  ロノ
  こんなとき音痴なのをくやしく思う

 ワッサム
  のびのびのびのび
  のびのびのびのび
  立ち並ぶ鋭角三角形たち
  のびのびのびのび
  シベリアの針葉樹林が
  みどり色のセロファンのような白夜に
  のびのびのびのび
  アイヌのワッサムがそれを見上げていった
  <アッ
   ウミノムコウデ セイシュン ガ ソダッテユク

 サトル
  川底に
  みどり色のラムネのびん キラキラ
  サトル さかさになってもぐる
  キラキラ 川底キラキラ
  手がとどかないので
  サトル 何度もくりかえす
  夏休み 
  はだしで駆けてゆく

 ボク
  いよいよボクのばん
  だけど
  <ぼくたちは
   神様のミスキャストたち
  と
  いってみせただけ
  そう
  ケンやカゼやゴロウや
  シノやロノやワッサムやサトルに
  題名をつけてやっただけ?
  いや
  これから
    (そういう間にもぼくの夏休みも終わってゆく
     そして冬になると また
     ぼくは鼻がつまってしまうのだろうな)

1971文眩

1971年の渋川高校文芸部誌「文眩」より。
この、表紙デザイン、イラストも。

変わってないでしょ?

というか、むしろ、40数年たってもまったく進歩がない
証拠のようなしろもの。