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一倉 宏

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2010/06/12 (土)
電子ブックの憂鬱

閲覧用アプリケーションをダウンロードして、驚きました。

著作権の失効した作品が「青空文庫」として無償公開されています。
これを図書館に喩えるなら・・・
ほとんどは(十進分類法で)9類の「910」、
つまり「日本文学」、そのなかでも特に明治以降の近代文学の名作、
定番(中には不詳なものも)を集めた「書棚」といえるでしょう。
規模はまだまだ、図書館レベルには及びませんが、
これを個人の蔵書と考えたとしたら、なかなかのものです。
そうとうな巻数の「日本近代文学全集」が・・・無償で読める。
漱石、鴎外、鏡花も。啄木、朔太郎も。横光、太宰も。

住民のリクエストにやむなくベストセラーの
ミステリーや実用書ばかり揃えざるをえない現状の公立図書館、
そんな新刊ばかり平積みにする駅前の書店には、
すっかり足が向かわなくなった昨今。

ソファやベッドに横になっての読書を至福とする私に、
iPad など液晶画面で読む習慣はたぶん根付かないと思います。
それでも、未読の折口信夫(なぜかすごく充実してる)など、
・ ・・この電子の棚につい手が延びてしまいました。

やはりこの「無償」は、革命的です。
良心的といわれる老舗の文庫ほど、ダメージは大きいはず。

これからの出版界はどうなるのか。
ますます「読み捨て」化がすすむのか。
また、無償閲覧が当然のようになれば、
企画・編集・出版という切磋琢磨やプロの選別が消え失せ、
ネット上の読み手がこぞって書き手になり・・・
文芸は「総・同人誌化」の方向にすすむのかもしれません。
事業としては、操作できる画像などの機能を駆使した
電子マガジンや電子ビジュアル本などが増えもするでしょう。

出版文化、紙の REAL BOOK のゆくすえを案じます。
じつは、電子データの寿命、数十年後のありさまは不明です。
はかないと見える「紙」の書物は、千年の時にも耐えるのに。