この夏、いちばんショックだったこと。
朝目覚めれば・・・いない。じゃなくて、ない。
あんなにいい気分で書いた原稿が、Mac の、どこにもない。
ずいぶん時間をかけて、すっかり満足して閉じた、ノートブックの。
ひさしぶりに、やっちゃった。
「保存しない」をポチッとして、寝てしまったのです。
それが、エッセイとかなら、論旨をたどればほぼ復元できるけど。
「詩のようなもの」だと、かなりむずかしいとわかった。
絶対「消えてしまった」ものの方が、美しかった気がする。
いつか聞いたSFのような話があります。人類が滅亡
した後の地球に、知的生命体が訪れたとする。そのと
きどんな「文明の解読」がされるのか、なにが手がか
りになるのか。メディアとしての「紙」は千年単位の
時間に耐え、文字や絵の刻まれた「石」なら何万年で
も情報を残す。それに比べて「電子」メディアはじつ
に脆弱なんだ、という話。…ぞっとしませんか。
捨てられないもの。手紙や日記、原稿。書籍やレコー
ドも。アルバムの写真。こどもの描いた絵。いままで、
たくさんの「捨てられない」ものを抱えて生きてきた
けれど。そういう蓄積が、時にはうっとうしくも思え
たけれど。いつのまにか、仕事もコミュニケーション
も「電子」的にしか保存されない時代になってきまし
た。これからの人生の痕跡は、あっさりと「捨てられ
る」覚悟をするほかはないのかもしれません。
『クリネタ』 Vol.5 〜捨てられないもの〜