blog ブログ

一倉 宏

Back Number
2010/10/14 (木)
それは「意味不明」ですか?

本日は「コピーライター養成講座」の秋コース授業。
私の担当は「表現の基礎〜発想法」ということで
コピーライティング以前の「ことばの発想」について話します。

ドリルのひとつで、「意味不明な」例文を書け、というのをすると・・・
毎回おもしろい例文がでてきます。
今回は・・・

 妻の耳に念仏

 休日欠勤

 昨日は黒かった

 拝啓 両面テープ様

 僕は君だから

ぜんぜん、意味不明ではないことばたち。
むしろ、イマジネーションの豊かな表現がこぼれでます。

 空が無い

という、あの『智恵子抄』と同じ詩句まで、とびだしました。
・・・そういえば、こんなストーリーも書きました。

  東京にないもの

 むかし 高村智恵子さんは「東京には空がない」といった
 いま よく晴れた日に 高層ビルの展望階に昇れば
 東京の空も ずいぶんと広い
 それでも 智恵子さんは「ほんとの空じゃない」というだろう
 どんなによく晴れた日の どんな超高層ビルからも
 彼女の ほんとうの 安達太良山の上の空は 見えない

 会社の同僚の 落合咲恵さんは「東京には海がない」という
 私は驚いて 彼女の顔を見る
 「浜松町まで行って 5分も歩けば見えるあれは 何よ?」
 「あれは湾 東京湾 海じゃない」と
 九十九里育ちの 咲恵さんはいうのだ

 東京には 隅田川も多摩川もある 神田川もある
 しかし 神田川を 日本人には有名な川だ
 有名なフォークソングに歌われていると紹介すると
 エジプトのひとたちは笑うらしい
 「これは川じゃない 側溝だ」と

 東京にないもの

 大阪生まれの吉岡部長は「東京には愛想があらへん」という
 吉岡部長は 東京のたこ焼きにも 文句をいう

 東京にないもの
 
 同級生だった 玉村直之くんは「東京には友達がいない」といった
 「直くんは ずっと地元だからね あっちが似合うし
 でも 池沢くんや 中里くんはどうなのよ」
 「もう10年以上 年賀状もよこさん」
 結婚する前 上京した玉村くんと 渋谷でお茶をした
 「それだったら この私は? 年賀状出してるよ」
 玉村くんは黙った それからこういった
 「たとえ 大むかしでもな ほんのちょっとでも
 付き合った女子のこと 友達とは いいたくない」
 それなら どうして・・・ 彼は私を・・・ 
 呼び出したのだろう?

 去年の連休は 夫の実家で過ごした
 休みが終わる日 帰り支度をしていた朝
 夫の祖母が畑から ごっそりと野菜を運んできてくれた
 「そんなもん・・・ 
 東京には ねーもんなんか ねーだわ」
 祖父が そういって笑った
 「いえいえ こんなに自然な野菜 うれしい」と 私はいった
 まがったキュウリ すこし小ぶりのトマト
 東京にも ないわけじゃない 無農薬とか謳う店に

 案の定 渋滞した高速道路
 実家の 父母祖父母の前では あんなにおしゃべりで
 機嫌のよかった夫が 押し黙る
 ないものはない 東京に 帰る途上で
 ないものなんてない 東京が 近づくにつれ

 「しまった」 と 夫が舌打ちした
 「何 忘れもの?」 と 私はきいた
 「あした 7時から早朝会議だった 6時には出ないと
 ・・・起こしてくれよ」

 東京にないもの
 東京にないもの

Tokyo Copywriters’ Street より 朗読/高田聖子