「ハイティーン詩集」寺山修司編 1968年刊 三一書房「高校生新書」
「高三コース」詩の投稿コーナーの選者寺山によって選ばれた「10代の詩」。
衝撃的な詩集でした。
なかでも「百行書きたい」秋亜綺羅。
「ハイティーン詩集」は、とうに絶版で入手困難ですが(こんな名著が!)
寺山修司「書を捨てよ 街に出よう」角川文庫 にも掲載されています。
百行書きたい ■ 秋亜綺羅
「シャボン玉ホリディ」を見たい
純喫茶「基地」でレモンティー飲みたい
郷愁を描いてみたい
“失われた喪失”の意味が知りたい
着飾った新宿女のマスク汚したい
接吻のあとに“ゴヲゴヲ踊ろうか”とささやきたい
女性(おとな)ぶる売春少女の涙をふきたい
田舎で一万円を拾いたい
母さんのエプロンで鼻汁かみたい
結局寒さを忘れることを嫌いたい
直角正三角形を夢見たい
どいつもイタリーも知りたい
コークとペプシをチャンポンしたい
埃(ほこり)より小さな星を食べたい
トイレに行きたい
“セ”したい
河原を捨てたい
こんどは誰の番か知りたい
返事をもらいたい
切られたい
シッカロールをなめたい
東京へ行きたい
中江俊夫の「語彙集」を持ちたい
詩は辞典なしで書きたい
走りながら死んでいたい
伊勢丹で愛犬キリーを呼び出したい
ユキに“処女をあげたい”といわせたい
手鏡を焼きたい
待ちたい
百行書きたい
相槌(づち)を打ちたい
黒い雨を氷菓子にして売りたい
昨日と明日を+(た)して2で÷(わ)りたい
もうそろそろ生まれたい
北の海辺で震えたい
プロポーズなんてよしたい
右翼になりたい
十年先を想い出したい
水平線で凍死したい
危険な食品を食べたい
刃渡り二十一世紀の果物ナイフを信じたい
千賀かほるの唾液にとろけたい
別れたい
溺死寸前には死に水を飲みたい
戦争ごっこしたい
ユキと■交したい
ちょっぴり泣きたい
足裏を掻(か)きたい
誕生日の歌を書いて五十万円もらいたい
そしたらパチンコ屋を始めたい
コカコーラは玉十個でよいことにしたい
先生! おしっこしたい
小指を見ていたい
戦慄(ぶるぶる)したい
もうやめたい
穴があったら出てみたい
早くハタチになって選挙したい
初夢には止まった時計を見たい
二百年後に(寺山修司は死ぬそうだから)処女詩集を出したい
ペンネームは秋葉俊裕としたい
ボサノバをかじりながらレモンを聞きたい
これは盗作だと非難されたい
シュークリームで絵を描きたい
“まだ白紙です”とキザりたい
何行まで書いたか数えたい
ドーナッツ型アドバルーンに色を塗りたい
腕時計はSEIKOを薦めたい
渋谷ブルースを作曲したい
日記には日記らしいことを残したい
でも順列・組合せは勉強したい
ベクトルは忘れたい
ファイティング原田を昼寝させたい
女産業スパイを脱がせたい
死んでも死んでも糞たれたい
ユキと絶交したい
そのあとTELしたい
なんてロマンティックな十八歳は終わりたい
顔を洗いたい
恋する男に歴史は暦より狭いことを耳打ちしたい
少年マガジンだから立読みしたい
天井桟敷館(ちかそうこ)に象にのって行きたい
けど文明には感謝したい
アポロが帰れなくなるのを見物(みとどけ)たい
死に装束を着たい
「さよならの総括」を歌いたい
隠したい
活字を裏返したい
感電死したい
新聞読みたい
石田学くんに会いたい
徴兵カードを焼き捨てたい
寺山修司に革手袋を贈りたい
新高恵子に貝の歌を捧げたい
エレベータで天まで行きたい
そのときはユキを連れて行きたい
意味のない暗号など書いてみたい
幽霊くんに“死人に口なし”といわせたい
どうも足の先が冷たい
──透明扉を閉めたい
いまでも新鮮な(固有名詞以外は)POPさ、でしょ?
これを書いたときの秋亜綺羅さん(寺山が命名したペンネーム)は18才。
ブログを発見しました。
あれから40年・・・にして、ふたたび詩作されています。
ああ、秋さんだ! うれしいなあ。