サントリー美術館が、まだ赤坂見附にあった頃。
「近代芸術家の書」と題した展覧がありました。
印象深かったものを3つ。
与謝野鉄幹(寛)と晶子の「寄書」。
おほ空のちりとはいかが思ふべき
熱き涙の流るるものを 寛
しらじらと木蓮咲きぬ大ぞらの
ひるの光を目におかぬ如 晶子
晶子の歌が寄り添うように、というか
まるで肩にもたれかかるようなかたちで書かれています。
石川啄木の「書簡」。
米長氏の方失敗に終り、其他
も矢張ダメ、一昨日四方へ手紙とば
したけれども、其返事未だ来らず、
(略)
米は今夜つきたり、明朝は粥。
(略)
この文御落手次第
一円か二円頼む、どうぞ、
(略)
啄木
啄木のこの手の手紙は多数存在するってことかな?
でも達筆、見事、この墨跡はいまや何十万円の価値があるか。
もうひとつ、宮本百合子の「書簡」。
初春景物
笹の根に
霜の柱を
きらめかせ
うらら冬日は
空にあまねし
こういふ奇妙なものを
お目にかけます
うたよりも封筒を
さしあげたいからよ
かいた手紙は△すぎて
入らず
二日 百合子
顕治様
△は私には読めなかったところですが
おそらく漢字で「長」かなあ。
しかし、なんてかわいい手紙だろう。
たしかその「封筒」も展示されていたはず。
でも、正月二日に夫へ宛てた手紙、ということは・・・
このとき宮本顕治(後の共産党委員長)は獄中だったのかも。