こんなタイトルで・・・
雑誌『ブレーン』にコピーライターによる連載がつづいています。
各人それぞれの、印象深いコピー3本を、というリレー企画です。
先日発刊された『日本のベストコピー500』のランキングとは
またすこし違った意味で。思い出のコピー、ということかな。
私は、糸井さんの「おいしい生活」よりも、これを。
仲畑さんの「おしりだって」よりも、これを選びました。
「モーレツからビューティフルへ」 (ゼロックス)
「想像力と数百円」 (新潮文庫)
「服を脱がせると、死んでしまいました」 (ワールド)
光栄にも連載トップバッターということですが、このテーマは悩み
ますね。数えきれない名作コピーの中から、「史的」にも「私的」に
も意義深く、ぜひコメントしてみたいと思うものを選びました。
1970 年は大阪万博の年、最後の「安保」の年、そして私の個人史
では高校入学の年です。いまも鮮烈な印象のCM「モーレツからビュ
ーティフルへ」。もしも、広告のコピーが時代を先導するメッセージ
になりうるとしたら。自由の女神かジャンヌ・ダルクのように、こと
ばの旗を打ち立てられるとしたら。鳥肌が立つではありませんか。私
は当時の一少年として、その予感に身を震わせたのです。
このメッセージには、なんとなくアメリカ西海岸風の、リベラルで
フリーでロックンロールな、そしていまでいうロハスな匂いもします。
このメッセージがたいへん魅力的で、時代の「希望」を言い当ててい
たのは事実ですが、しかしその後の歴史はとても「ビューティフル」
へ向かったとは思えません。沖縄は本土復帰し、ベトナム戦争は終結
しても。その後に団塊の世代や私たちが経験した、いや、つくってき
た当事者としての「時代」は。泡がはじけ飛んでもまだ、性懲りもな
く「金まみれ」な時代と言わざるを得ないでしょう。
糸井さんと仲畑さんによる2つのコピーは、すでにコピーライター
になっていた私が、衝撃を受けたもの。新潮文庫のこのタグラインは、
なんだかアインシュタインの方程式のように完璧なものに、私には思
えます。エレガントで美しく、そして永遠のように大きい。
また、仲畑さんのこのコピーは、私にとって鋭く痛い思い出のある
ものです。その頃私は、売り出し中のコピーライターとして、つまり
ちょっと、自分の「新しさ」に自負するところがありました。そんな
ある日、このコピーに出会い「しまった、凄い才能が現れたぞ!」と
打ちのめされてしまったのです。それが、じつは仲畑さんの作品だと
知って。それで「救われた」思いにぜんぜんならないことは、感受性
豊かな若い読者には、きっと理解していただけるでしょう。