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一倉 宏

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2012/03/20 (火)
吉本隆明の「世界」

その<洗礼>を受けたのは1970年、高校1年の夏。
ちょっとかっこよかった、詩を書く3年生に詰め寄られた。
「きみはヨシモトのゲンビを読んだか?」
それは吉本隆明の『言語にとって美とはなにか』という著作。
読んだことあるわけないでしょ、まったく。中学出たての少年で。
「きみと話をするのは、それからにしよう」

そういう時代でした。でも、それはわるくない。
若者は背伸びをすべきだし、生意気であるべきだ。
「世界」との、格闘をはじめる、その年頃は。

吉本さんの有名なセリフのひとつ
「井の中の蛙は、井の外に虚像をもつかぎりは、井の中にあるが、
 井の外に虚像をもたなければ、井の中にあること自体が、
 井の外につながっている」

それは、いつも「世界」にコンプレックスをもっていた
「世界」をイコール「西欧」、その「文化」として引用するだけの
明治〜戦後の日本(のアカデミズム、ジャーナリズム)に対する
強烈なアンチテーゼだったでしょう。

なんて自信に満ちた。なんて堂々とした。「個」がそこにあった。

世界認識。
その「世界」とは・・・
JET STREAM で JAL PACK が誘う「世界」とも違うし
世界の一流ブランドの「世界」とも違うんだ。

内と外とのほんとうの境界は、血縁でも、地域でも、国でもなく
ただ、ひととして、個としての存在にある。
そんなことを、教えられた気がした。

いまでも「世界」ということばを、私はその意味で使います。

 幸せのその日に 君はなぜ震えて泣く
 世界でいちばんの 笑顔のあとで
 世界に愛されながら

           斉藤和義「ウエディング・ソング」