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一倉 宏

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2014/04/19 (土)
歌曲集『枕草子』コンサート 〜 解説 その1

5/26の、アルバムリリース記念コンサート。

 ☞ムジカキアラ〜歌曲集「枕草子」

パンフレット用に作品解説を書いてみましたので、その一部を紹介します。

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 比べられない

 この世にふたつ 夏と冬と
 比べられない 昼と夜と
 雨の降る日と 晴れる日と
 髪長きひと 短きひと  (後略)

第六八段「たとしへなきもの」より。
「たとしへなし」は「共通点がない」こと。夏と冬。昼と夜。清少納言は、
この世界にある「正反対のもの」をならべ、その違い、多様性に驚いている
ようです。こういう着想自体が、たいへんに詩的なものに思われます。どう
してなんだろう。本当に彼女のいうとおりではありませんか。この世界は均
一でなく、違い、多様性に満ちているからこそ豊か、なのですが…。
そして、人間について。人間もまた、人それぞれ。けれど「おなじ人ながら
も」と、彼女は書きました。人のこころは変わる。ひとりの人間が、まるで
別人のように。清少納言が指摘しているのは普遍的な人間の姿だと思います
が、この歌にするにあたっては「愛は移ろう いつのまに」と原文にない一行
を挿入することによって、本歌曲集では唯一の、LOVE SONG的な解釈とし
てみました。

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 日々の嬉しさ

 日々に… 夢中で読める
 本のつづきの 嬉しきこと
 怖い夢みて 胸騒ぐに
 慰めるひと いること  (後略)

第二五七段「うれしきもの」より。
紫式部は長編の物語で、清少納言は随筆で。同時代にこのふたりの女性がい
たこともまた、奇跡のようです。その性格は対照的だったようですが。
清少納言は思いつくままに『枕草子』を書いたでしょう。あふれ出すままに。
好きなもの、お気に入りのものなどの「名詞」を列挙したり。もう一方では、
具体的なエピソードととして、こんなことがあった、こんなことも思う、と
語ったりします。のびのびと開放的な性格が、その文体にも表れています。
この段のテーマ「うれしいもの」について。清少納言の語る、その姿まで浮か
びます。読書の楽しさ。怖い夢とそれを理解してくれる友。憧れの人との座談。
病人の恢復。友人が褒められること。一転して、紙、文房具へのこだわり。
ちょっとした自慢話。探しものが見つかる。そして、ゲーム。注文したファッ
ション、アクセサリーなどが届いたとき。悩みごとが解決したとき。
どうでしょう。その気持ちよくわかると、千年後にも思えるなんて。