PROLOGUE 〜 20年という時間は
20年という時間と 東京駅の通路で出会った
これから彼は新幹線に 僕は地下鉄丸ノ内線に乗るところ
20年のご無沙汰を いくつかの短いことばで埋めて
僕たちはまた それぞれのレールをゆく
10年という時間が ポケットの中にあった
もう捨ててしまおうと思った ツィードのジャケットの
10年前に書いたそのことばは たしかに僕のようで
どこかいまと違うようで どちらが僕なのか
5年という時間を 僕はタクシーの中に忘れた
1年という時間は 僕に何を書かせただろう
この 暑すぎた夏の記憶さえ 僕らはなくしてしまう
あなたが きのう怒った理由は 何だっけ?
そうだ インターネットの苦手なあなたが いったことばは
僕が 「世界とつながっているけど 私とつながっていない」
廊下のクリプトン電球のひとつは 切れたままだ
いつかの誕生日にもらったワインは 冷蔵庫に眠ったまま
もういちど南の島にいこうと言った約束は 風に吹かれたまま
20年という時間の そのまた20年前
彼と僕とは 南の国の 戦争について話した
友よ その答は いまだって 風に吹かれたままだ
いまでもイラクで そしてアフガニスタンで
カリフォルニアのホテルは 相変らずのワインブームで
どんなスピリッツも在庫切れのまま 1969年からずっと
「ウイスキーをくれないか ハイボールじゃなく ロックで」
ウイスキーをラッパ飲みして 声を嗄らせたロックの女王は
「メルセデス・ベンツが欲しい」という ブルースを歌った
いまじゃ誰だって買えるさ たとえば20年落ちでよければ
20年という時間は そういう時間だ
僕らもやがて ポンコツになる
20年という時間と 渋谷のクラブで出会った
彼は好きなワインを 僕は薄いハイボールでも飲むだろう
20年のご無沙汰を いくつかの短いことばで埋めて
僕たちはまた それぞれのレールをゆく
この世界に生まれて 20年が経った頃
僕ははじめて 好きな女の子と いいことをしたんだ
狭い部屋で 色の濃いウイスキーを飲みながら
ポンコツのテレビが いい歌をうたっていた
その素敵な歌は CMソングだった
CMソングだけど ラブソングだった
僕らは 素敵なCMソングを口ずさみながら
素敵な メイクラブをした
この世界に生まれて 20年が経った頃
20年という時間は そういう時間だ
20年も経てば 生まれてきたいのちは メイクラブできる
そうして 新しい 素敵ないのちをつくることだってできる
20年という時間は そういう時間だ
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10月2日の20周年パーティ&ライブ@JZ Brat にて。
井上鑑さんのピアノ( ” My Back Pages ” をモチーフに )との
コラボレーションで朗読しました。
キース・ジャレットより、さらにリリカルな、鑑さんアレンジで!
朗読は・・・若干、噛んだけど。
でも、オーディエンスの反応もよかったし。
やっぱり・・・歌わなくて、正解か。