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一倉 宏

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2010/07/16 (金)
フリコメ君からの電話

 留守中、郷里の従弟Kから「携帯の番号を変えた」と
 連絡があったらしい。ふーん、と思っていたら、翌朝
 また電話があった。「Kくんから」と、妻がいう。な
 んだかいつもと違う暗〜い感じなのだけど、緊急の相
 談事らしいので、とりあえず話を聞く。「家族にも会
 社にもナイショで健康器具を仕入れて売るバイトをし
 ていたんだけど」「大口の取引がまとまったところで
 納期が遅れて」「つい会社の金で埋め合わせちゃって」
 「経理部長がいうには今日中に戻せば内密に」と、絶
 体絶命のストーリー。なーんだ、結局は「・・・振り
 込んでもらえないか」という相談だった。「いくら?」
 と聞けば「105万」、消費税込みかよ! 「わかった。
 すぐに折り返すから」といって、「変更前」の従弟の
 番号にかけてみた。「どうしたの、なんかあったんか
 い?」と明るい声が返る。賢明なる読者諸氏は読んで
 る途中でとっくにお気づきのことと思いますが、当事
 者の私は結末直前まで信じかけて、心配してしまった。
 「ことば」の説得術にかけてはプロともいえる、この
 私でさえ。いや、じつに巧妙なストーリーテリングと
 リアルな演技力でした。妻に「ほんとにKって名乗っ
 たの?」と問えば「いったよ!」「いった気がする」
 「そういえば、いってないかも」と記憶を訂正する始
 末です。何事も天然に信じやすい妻や、家族愛に溢れ
 たご老人が相手なら、イチコロに違いない。こうして
 「笑い話」で済んだからいいけど、なんていってられ
 ない「ことばの詐術」の恐ろしさも痛感した。だけど、
 この体験談をするたびに、家族も友人たちも大いに笑
 う。恐怖と笑いは紙一重、という一席かもしれない。

            (「クリネタ」Vol.7 寄稿 )

いまから考えれば、振込み先まで聞いて、警察に通報して逮捕!
というのがいちばんの正解なんでしょうけど・・・
そこまでの機転も演技力も、私には欠けてました。