今回のロケ地は前橋。
広告制作の仕事について30数年。
はじめての、ふるさと群馬でのロケでした。
一日目は台風20号の影響で雨まじりの曇天。
けれど、空抜けのカットを撮る二日目は、天頂に青い空が。
台風の通り過ぎる空はドラマチックに動きます。
一日、空を眺めながら過ごして、思ったこと。
ああ、この空の下で、ぼくは育ったのだと。
前橋で降り、そのあと桑畑のあいだの道を徒歩で西方の
相馬ヶ原(現・箕輪町)にむかったときは、はじめて見る
関東平野というものの広さにおどろいてしまった。
「こんな広いところが、日本にもあったんですねえ」
(中略)
榛名、赤城という、山頂に火口湖をたたえて裾野を大き
くひろげている円錐状のかつての火山が全面の視野いっぱ
いを占めていて、その4合目あたりから裾野が大傾ぎにか
しぎつつこちらへひろがってきて、さらに背後へひろがり
つづけ、ついに東京へいたるのだろうと思うと、空が落ち
てきても大丈夫なひろさのようにおもわれた。
(中略)
・ ・・その感じの中で萩原朔太郎をおもいだし、空だけ
だったから詩人を生んだのだとおもったりした。京都周辺
のような錯綜した山河でなしに、こういう空が大きすぎる
下で、変化するものといえば雲の形や色だけという自然の
中で少年の日々を送ると、想像力が際限もなくひろがるの
ではないかとおもったりした。
・ ・・ともかくもこの日の上州の空は大きすぎ、なにか
言葉でうずめないと歩いてられないほどであった。
司馬遼太郎「私の関東地図」